手根管症候群
1. 手根管症候群の原因
透析患者にみられる手根管症候群の原因は、横手根靱帯や腱鞘滑膜へのアミロイド沈着である。肥厚した横手根靱帯と増殖した腱鞘滑膜が正中神経を圧迫し、これにより手指の疼痛やしびれ、母指球筋の麻痺と萎縮をきたす。手指の疼痛は透析中や夜間に増強し、母指球筋の麻痺は母指対立運動障害の原因となる。
2. 手根管症候群の診断
手根管症候群の診断にあたっては、独特の症状を確認するとともに、ティネル徴候の有無を調べ、かつファーレン試験を行う。手関節部のハンマーによる叩打で手掌から手指にかけて疼痛が生じれば、ティネル徴候ありと判断する。また、手関節部を強く掌屈位に保持すると1分以内に疼痛が増強した場合、ファーレン試験陽性とする。手関節部を背屈位にすることにより疼痛が増強するか否かを調べる逆ファーレン 試験が用いられることもある。
3. 手根管症候群の治療
第1指から第4指に明らかな疼痛やしびれが認められるときには、内視鏡下あるいは直視下における手根管開放術の適応となる。電気生理学的検査による正中神経伝導速度の測定は手術適応を決定する際に有用である。手根管開放、屈筋腱周囲の増殖した滑膜の除去、正中神経剥離により第1指から第4指の疼痛やしびれ感は手術の当日から軽減ないしは消失する。しかし、手術の時期が著しく遅れた場合には、正中神経の圧迫も高度となり、手術を行っても症状の著明な改善は得られなくなる。
何らかの理由により手根管開放術が施行できないような場合には、手指の疼痛をロキソプロフェン(薬)、ジクロフェナク(薬)、エトドラク(薬)、ザルトプロフェン(薬)、などの非ステロイド系消炎鎮痛剤で抑える。非ステロイド系消炎鎮痛剤には、健胃薬、H2ブロッカーなどを併用する。